放射線の知識

医療機関での放射線検査の被ばく量はどのくらい?

Poteto

こんにちは、放射線技師のPotetoです。
レントゲンやCT、核医学検査など医療における放射線は診断・治療に不可欠ですが、「どのくらい被ばくするの?」と不安に感じる方も多いと思います。この記事では、国際的な勧告・公的資料に基づき、医療被ばくの代表的な目安(実効線量)安全性の考え方を、読みやすく整理します。

医療放射線による被ばく線量の目安(1回あたり)

同じ検査でも、装置・撮影条件・体格・プロトコルで変動します。以下は代表的な目安レンジです。

X線(単純撮影)

検査代表的な実効線量(mSv)補足
胸部(PA)0.02–0.1近年の装置では下限0.02mSv程度の報告も。
腹部 単純≈0.6–0.71枚あたりの代表値
骨盤 単純≈0.7
腰椎(シリーズ)0.5–1.8撮影方向数で変動
頭部 単純~0.1低線量
マンモグラフィ(両側・2方向)0.4–0.8片側0.2前後×2

透視・造影

検査代表的な実効線量(mSv)補足
上部消化管造影(胃透視)1.5–12(代表≈3)撮影枚数・透視時間で幅が大きい
下部消化管造影(注腸)2–18(代表≈6)
透視検査について
X線TV検査(透視検査)とは?検査の流れ・被ばく量・注意点を放射線技師が解説
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CT(成人・代表的設定)

検査代表的な実効線量(mSv)補足
頭部CT1–2(代表≈2)
胸部CT5–7(代表≈6)
腹部・骨盤CT8–14(代表≈8)
広範囲CT(頭~骨盤/全身など)10–30造影や範囲で変動

現場では「CTを受けるとかなり被ばくする」と心配される方もいますが、
実際には撮影目的に応じて線量を最小限に抑える工夫をしています。
特に最近の装置は、画像の質を保ちながら被ばくを減らす技術(自動露出制御や逐次再構成など)が進歩しています。

核医学(代表的薬剤)

検査代表的な実効線量(mSv)補足
骨シンチ(99mTc)3–6製剤・投与量に依存
心筋シンチ(99mTc sestamibi)9–13プロトコル依存
腎シンチ数百µSv~数mSv薬剤・収集条件で変動
ガリウムシンチ~20
FDG-PET≈7PET単体の代表値
FDG-PET/CT(合算)20–30CT条件で上下

血管内手技・骨密度

検査代表的な実効線量(mSv)補足
冠動脈造影(診断)≈7透視時間に依存
PCI(治療)≈15症例・時間で上下
DXA(骨密度:腰椎・大腿骨)0.001–0.01極めて低線量

参考:自然放射線

世界平均の自然放射線は年間約2.4 mSvです(地域差あり)。

医療被ばくの安全性と考え方(ICRPの枠組み)

  • 正当化:検査の利益が被ばくリスクを上回ること。
  • 最適化(ALARA):目的を満たす最小限の線量で行うこと(撮影範囲・条件の適正化、小児は特に配慮)。
  • 線量限度:患者には直接適用せず、医療では正当化と最適化で管理。

「実効線量」は何を示す指標?

国内でも線量記録・管理や教育体制の整備が進められています。

実効線量(mSv)は、異なる検査どうしの“だいたいの大きさ”を比較するための集団平均的な指標です。個々人のがんリスクを厳密に見積もるための値ではありません(年齢・感受性・照射部位・装置条件で大きく変わります)。

  • 臨床では正当化と最適化(ALARA)が基本:検査の必要性と情報価値が被ばくを上回ることを確認し、線量は可能な限り低減します。
  • 同じ検査名でも条件で値は変動:表の数値は“目安”としてお考えください。
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国内の診断参考レベル(Japan DRLs)に基づく最適化

日本でも診断参考レベル(DRL)が定められており(例:Japan DRLs 2020、必要に応じて最新版に更新)、各施設はこれを参照しながら撮影条件を見直し、線量の最適化を継続しています。DRLは“基準値”ではなく、見直しの目安として用いられます。

  • DRLを超えているから危険という意味ではありませんが、継続的な最適化の起点になります。
  • DRL未満であっても、画質が保てているか等の臨床的妥当性を常に確認します。

「過度に怖がる」ことのリスクと、安心のために

  • 検査を不必要に回避すると、病気の見逃しや治療遅れのリスクが上がります。
  • 一方で、重複検査の抑制線量最適化(低線量CT、再構成法、撮影範囲の適正化など)は継続的に行われています。
  • 不安がある場合は、必要性・代替・線量について医師や放射線技師に遠慮なくご相談ください。

よくある質問

放射線は体に蓄積する?
 → いいえ。放射線そのものが体内に残るわけではありません。ただし、DNA 損傷などの影響は繰り返しの被ばくで累積する可能性があります。

医療被ばくは防げない?
 → 医療被ばくは「利益 > リスク」のバランスで判断され、最小限の線量で行われるよう設計されています。

子どもや妊婦への配慮は?
 → 小児や妊婦には特に注意が払われ、必要性や代替検査の検討がなされます。

まとめ

  • 本稿の線量表は代表レンジに統一し、主要検査の典型値を一次情報・公的情報に基づき更新しました。
  • 医療放射線は診断・治療のために必要なときに限り実施されます。
  • 線量は国際基準に基づいて最小限に抑えられています。
  • 不安がある場合は、医師や放射線技師に相談しましょう。
  • 医療放射線はICRPの正当化・最適化の原則に沿って安全性へ配慮して運用されています。

私たち放射線技師は、患者さんが不安を感じないように、撮影の前に必ず声かけや説明を行っています。
「被ばく量はどれくらいですか?」と質問していただくのも大歓迎です。
正しい知識を持って検査に臨むことが、最も安心につながります。

参考文献・公的情報

  1. ICRP Publication 103: The 2007 Recommendations of the ICRP(抜粋PDF・書誌)。
    PDF 抜粋書誌ページ
  2. AAPM Report 96: CT線量の測定・報告・管理(代表値と留意点)。
    PDF解説ページ
  3. UNSCEAR 2008 Report(自然放射線の世界平均 2.4 mSv など)。
    概要ページPDF
  4. MSD Manuals(Typical Radiation Doses:臨床向け代表値表)。
    表:Typical Radiation Doses
  5. 厚生労働省:医療被ばくの適正管理・関連資料。
    医療放射線の適正管理に関する検討会
  6. Mettler FA ほか:代表線量の総説(X線・CT・核医学)
  7. Japan DRLs(国内の診断参考レベル:2020版、今後の改訂版)
  • 最終更新日 2025/10/29
  • 執筆者 Poteto (診療放射線技師/放射線管理士/放射線被ばく相談員/マンモグラフィ撮影認定技師)
  • 免責 本サイトの情報は個別診療に代わるものではありません。 

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総合病院に勤務している放射線技師のPotetoです!放射線に関する不安や疑問に寄り添うために、このブログを立ち上げました。日々の生活に役立つ放射線の知識や、放射線技師の仕事についてわかりやすく発信しています。
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